銀行融資を受けるにあたり、
@社長様宛の「仮払金」が大きすぎる
A社長様本人への「貸付金」が大きすぎる
B現金残高が異常に大きい数値になっている
といった理由で融資交渉がうまくいかないことがあります。
今日の話は、完全に理解しようと思うと、簿記の知識が必要となるので、結論だけを覚えておいていただければ、プロセスを理解する必要は当面ありません。
「現金」「仮払金」「貸付金」というのは、いずれも税務署等に提出している「決算書」に当社の財産として掲記されている項目です。
いずれも財産項目ではあるのですが、
「財産が大きくてどうして融資に差し支えるのか?」
という素朴な疑問が生じますよね。
私も時々、顧問先さん以外の決算書を見るときがありますが、たまに「現金」、「仮払金」、「貸付金」が肥大化してしまっている決算書を見かけます。
実際、それだけの現金があるのかというと無いですし、社長さんがそれほど自分の会社から貸付や仮払いを受けたかというと、そういうつもりもないことが一般的です。なのに、決算書には大きな現金、仮払金、貸付金などがある。
「どうしてこんなことになるのだろう・・・?」
と不思議に思った金融機関の方から一体何が起こっているのかと相談を受けます。金融機関はお金を貸す側ですので、財産として計上されている物が本当に存在しているか、財産価値があるかという点には非常に関心があります。
「現金」「仮払金」「貸付金」はどれも財産項目なので、本当に財産価値があるものなのか気になるわけですが・・・
実際に金融機関の担当者から社長様に
「本当に現金、こんなにあるんですか?」とか
「本当に社長、会社からこんなにお金を借りてるんですか?」
と聞いても、社長様にはそのような身に覚えは全くなく、この質問に答えることができず、戸惑ってしまいます。
明確な回答が得られなかった銀行の担当者は、
「この財産項目は、内容はよく分からないが、とにかく帳面上計上されているだけで、内実を伴わない財産だ。」
と結論づけるしかなく、これがもとで融資に差し支えるわけです。

それでは、どうして、このように「現金」「仮払金」「貸付金」が肥大化してくるのか・・・?
それは、
「現金の管理が適切に行えていないから」
です。
どういうことなのか・・・?ただ、冒頭申し上げたように、今日のテーマを完全理解するには、皆さんに簿記を勉強していただく必要があるところ、それはなかなか難しいので、今日は結論だけを知ってて下さいと申し上げました。
ですので、どうして現金管理が不十分だと、仮払金とか貸付金が増えるのかというメカニズムが理解できなくても大丈夫です。安心して下さい。
多くの人が、どうして携帯電話がつながるのかを理解せず、どうして車がアクセルを踏むと進むのかを理解していない状態で、携帯電話を使い、車に乗りますよね。それと同じです。知識や技術の内容を理解することと、その知識や技術を活用することは別次元の問題です。
現金管理ができないとどうして現金、仮払金、貸付金が大きくなるのかを少しだけ説明すると、
例えば、
会社の銀行預金口座から20万円を下ろしてきたとします。このときの引出は通帳に記録として残ります。この20万円のうちから@会社の経費を支払い
A社長様が夜ご飯を食べ
B残りを自分の財布に入れたとしましょう。
後日社長様は、@会社の経費に充てたときのレシートを会計事務所に提出しますが、A自分が夜ご飯を食べた際のレシートは会社の経費にならないと思い、会計事務所に提出しなかったとし、Bに関しては、そもそもレシートも何もないですね。
この一連の流れを会計事務所から見ると
「20万円を会社の預金から引き出したこと」
「@会社の経費に一部を充てたこと」
以外は分かりません。
A、Bは会計事務所からは把握のしようがなく、20万円の一部はどこかにいってしまったということになります。そこで、この一部はおそらく社長様の財布か何かに入ったのだろうと想像し、20万円のうち、経費に充てられなかった残りは、「仮払金」や「貸付金
」という科目で処理したり、中には、手元の現金として処理する会計事務所もあるでしょう。
これを繰り返すことによって徐々に現金、仮払金、貸付金は成長していきます。

では、このように現金、仮払金、貸付金が肥大化していかないためにはどうしたらいいのでしょうか。
ポイントは次の二つです。
@会社の現金について、ちゃんと出と入りを記録する(会社の家計簿をつける)
A会社の預金から引き出した現金を自分の財布にしまわず、残ったお金はちゃんと会社の銀行口座に戻し、自分自身の生活はあくまでも役員報酬の範囲で支出する
という2点です。
これもまた、「どうして」の部分は分からなくても結構です。
とにかく、結論です。
もし、
@既に銀行などから「現金」「仮払金」「貸付金」が大きすぎる旨の指摘があった。
A改めて決算書をみたところ、なんだか現金、仮払金、貸付金が妙に大きいと気づいた
という場合は、
@会社の現金について、ちゃんと出と入りを記録する(会社の家計簿をつける)・・・現金管理
A会社の預金から引き出した現金を自分の財布にしまわず、残ったお金はちゃんと会社の銀行口座に戻し、自分自身の生活はあくまでも役員報酬の範囲で支出する・・・家計と会計の明確な分離
を実践してみて下さい。
必ず症状は緩和します。

世の金融機関の担当者さんに言いたいのは、
「会社の現金、仮払金、貸付金が大きいのは会計事務所を変えても解決しない」
ということです。

金融機関の方から、現金、仮払金、貸付金が肥大化しているので、檜垣会計で見てもらえないかという問い合わせをいただきます。大変ありがたいことです。しかし、上記のように、現金管理の実施と家計と会計の明確な分離をしない限り、どこの会計事務所でも同じことが起こります。

そして、世の会計事務所職員の方に言いたいのは
「会社さんがちゃんと現金管理をせず、会社のお金も個人のお金もごちゃごちゃにしてしまうのは、ただ、それがまずいことだと知らないからなんだ」
ということです。

よく、「あそこの会社は現金管理ができてない!」と言っている声を聞きます。かくいう私も以前はそういう人間でした。

しかし、多くの経営者の方と会ううちに、何らの悪意もなく、ただ知らなかっただけなんだということに気づきました。
我々会計の専門家にとっては、「現金管理」や「会計と家計の分離」は朝起きたら顔を洗うぐらい自然な行為なのですが、一般の方にはちゃんと説明する必要があるものです。
おそらく多くの経営者が一度分って納得すれば、すぐに行動を変えるのではないでしょうか。

今日の話はちょっと難しかったので、理解できない方もいらっしゃったでしょう。そんなときは、何度も申し上げますが、とにかく結論だけ知ってていただいて実践してみていただけたらと思います。