相続対策というと、どうしても、相続税、贈与税などの「税法」が注目されがちですが、今日は少し視点を変えて「会社法」という別の法律から備えておくべき内容をダイジェストでお伝えします。「会社法」ですので、個人事業主の方は該当しませんので、予めお伝えしておきます。

(1)株主名簿
意外と知られていないのが、この「株主名簿」です。
株主名簿が必要というと多くの方がこれをイメージされます。

これは、法人税の別表2と呼ばれている書類で、株主の住所や氏名、株数が記載されているので、一見すると株主の名簿に見えます。しかし、これは、法人税申告書類の一種類であり、会社法が想定している株主名簿ではありません。

ところで、「会社法」がいっている株主名簿がどうして必要なのかを先にお伝えしておくと、株式を贈与したり譲渡したりした場合、その贈与や譲渡が法的に有効な贈与・譲渡となるためには、株主名簿への贈与・譲渡の事実を記載することが求められているからです。
すなわち、株主名簿がない、あるいは、株主名簿に記載されていない贈与や譲渡は当事者間では事実として存在していたとしても、税務署を含む第三者に主張することができないというルールになっています。詳しく見たい方は、インターネットで会社法130条1項を検索してみてください。
では、その株主名簿とはどのようなものかというと、特に法律上定められた様式があるわけではありません。しかし、これだけは絶対に記載しておいてくださいという内容は決まっています。
それは、次の通りです。
@株主の氏名又は名称及び住所
A前号の株主の有する株式の数
B@の株主が株式を取得した日
C株式会社が株券発行会社である場合には、株券の番号

現代では、株券を発行している会社は少ないので、参考までに、株券不発行の会社の株主名簿のサンプルを下記に掲載しておきます。

 おそらく株主名簿がない会社さんの法が圧倒的に多いと思います。しかし、過去の贈与申告書などから移動日を割り出し、これから作成していけば足りると思いますので、心配する必要はありません。

(2)会社の登記内容の確認
@株券発行の有無
株式と聞くと、こんな感じのイメージをお持ちの方もいらっしゃるかと思います。

昔は、すべての株式会社は株券を発行することとなっていたので、社歴の長い会社さんではこのような株券が実際にあるという場合もあるかと思います。しかし、現在では、元々株券を発行する会社でも、株券を発行しない会社に変更できますし、近年新たに設立された会社の場合は特に定款で株券を発行する旨を定めない限り、株券を発行しない会社として設立されます。もし、御社の商業登記簿謄本を見て、株券を発行する会社となっている場合、例えば、株式の生前贈与などを行うためには、株券を譲り渡さない限り、株式の贈与は成立しないこととなり、もし、会社設立以来、一度も株券を印刷したことの無い会社では、贈与のために新たに株券を印刷せねばならないということになってしまいます。
株券印刷の手間やコストを考えれば、株券を発行する会社になっている方は、株券を発行しない会社に変更されることをおすすめします。

A会社の機関設計(取締役会や監査役の設置状況)
昔は、株式会社を設立するためには、取締役会構成員として、最低でも3名以上の取締役と監査役が必要でした。そのために、「とりあえず必要だから、名前だけでも貸してほしい」という感じで、実際には会社経営に関与していない経営者の身内の方などが取締役や監査役として登記されているというケースは今でもたくさん見かけます。
しかし、日頃顔を合わさない身内をこれらの役員として登記していた場合、気がつけば亡くなってしまっていた、取締役会議事録を作るのに判子を押してもらわないといけないなど、余計な手間の原因となることがよくあります。
現在は、不要であれば取締役会も監査役も廃止し、最低限、取締役1名いれば足りる会社にすることも容易にできます。もし、歴史のある会社さんなどで、名義だけの役員さんが名を連ねている会社があれば、事業承継のタイミングで、登記上の役員と実際上の役員を一致させるべく、適切な機関設計に見直されてはいかがでしょうか。

B譲渡制限の有無
同族経営の中小企業で日常的に自社の株式が売買されることはないので、あまり株式の譲渡に制限をかけるという発想がない方もいらっしゃるかもしれません。確かに、社長様が全株式を持っている場合は、自分が譲渡したくなければしなければいいだけなのですが、社長様以外に株主がいる場合に、その株主が社長様の知らないところで、社長様の知らない誰かに自由に株式を譲渡でき、その人がの株主が会社に関与してくるということになると、不安を感じる社長様も多いのではないでしょうか。
会社法上、原則として株式は社長様の許可無しでも自由に譲渡することができますが、定款で譲渡に制限を加えることも可能です。歴史のある会社さんでは、株式の譲渡に制限をかけていない会社さんも散見されます。もし、株式に譲渡制限がかかっていないようであれば、1日も早く譲渡制限をかけていただければと思います。

 今回は、株式の生前贈与をやって行くに当たり、最低限、ここくらいは見ておいてほしいなぁと思う点を取り上げました。実際には、定款の内容の見直し、名義株式問題の解消など、対策すべきことは多岐にわたりますが、また別の機会にまわしたいと思います。